第32回 道祖神の招きにあいて

1年に何回か、旅行ではなく旅に出たくなる時があります。

中身をしっかり決めて、計画的に行動する前者は目的から行動が導出されます。青春18切符はこの観点から言えば最悪の代物でしょう。新幹線の快適さには到底及ばないし、コスパでは高速バスに劣ります。しかし、行き当たりばったりで進んでいく(と私は定義している)後者、この魅力を存分に堪能するためには最高のツールとなり得るのです。

旅はほぼ確実にトラブルに巻き込まれます。発車時間ギリギリまで空かない個室トイレに気を揉み、また遅延ひとつで大きく狂いかねないタイムスケジュール、座れるかどうか分からない次の電車など、不安の種は尽きません。 (今、初っ端から熱海行きの電車が遅延しています)

しかし、だからこそ一つだけ空いている席を見つけた時の喜びはひとしおですし、タイムスケジュールなんて狂って元々だと割り切って電車を柔軟に変更することもできます。また新幹線よりゆっくりとしていて、高速バスより開放的な鈍行列車からは普段以上に周囲の風景が目に映り、地形や地名に思いを馳せられるというものです。普段の不安やマイナス面がそのまま醍醐味に転換する倒錯的な魅力を知るには、百聞より一体験すべきでしょう。

事前に何も決めずにぼんやりと。長期休暇のお供に、ご一考してみてはいかがでしょう。